【続報】歴代次官ら１０人の殺害計画…住所調べ、地図に印も

元厚生次官宅襲撃事件で、銃刀法違反容疑で逮捕された無職小泉毅(たけし)容疑者（４６）（さいたま市北区）の関係先から、歴代厚生次官の名前と住所が複数書かれたメモや地図が押収されていたことがわかった。

　捜査幹部によると、小泉容疑者は「元厚生次官ら１０人ぐらいを殺害するつもりだった」と供述。押収した地図には歴代次官宅とみられる地点に印が付けてあった。警視庁と埼玉県警は、小泉容疑者が多数の元厚生次官を狙った前例のない襲撃計画を立てていたとみて全容解明を急いでいる。

　警視庁では、小泉容疑者が東京・霞が関の警視庁に軽乗用車で出頭した翌日の２３日、さいたま市内の自宅や、この軽乗用車の中を殺人未遂容疑で捜索した。

　捜査幹部によると、この捜索でメモと地図が押収され、メモには旧厚生省の歴代次官の名前と住所が、地図には同じく歴代次官の自宅所在地に印が付いていた。このほか段ボール２箱も見つかり、うち一つには、妻の靖子さん（７２）が襲撃された東京都中野区の吉原健二さん（７６）あての宅配便の伝票が張られていた。もう一つからは、さいたま市南区の自宅で妻の美知子さん（６１）とともに殺害された山口剛彦さん（６６）とは別の旧厚生省幹部の名前と住所が書かれた伝票が確認された。

　小泉容疑者は「ほかにもやろうと思ったが、騒ぎが大きくなり、警備が厳しくなったので、これ以上（の襲撃）は無理だと思って出頭した」とも話しているという。

　同容疑者は吉原さん宅襲撃翌日の１９日、ベージュ色の軽乗用車をレンタカー店に返却した後、その日のうちに「２２日に車を使いたい」と電話で予約していたことから、同庁は、小泉容疑者が「第３の犯行」を計画して車を予約したものの、警察の警戒が厳しく断念したとみている。

 　また、小泉容疑者は両事件について「大学に行って官僚が悪いやつらと気づいたので、いつか襲ってやろうと思った」と供述。歴代次官の住所は職員録を図書館で閲覧して調べたと供述しているという。

　一方、捜査幹部によると、小泉容疑者が出頭した２２日夜、読売新聞など報道各社に送られた「元厚生次官宅襲撃事件について」というメールについて、同容疑者は自分が送ったことを認めた。「吉原の妻に使った凶器は山口を殺した包丁を使用した」といった犯行状況に関する記述など内容もすべて認めている。

　同庁は２４日午後、銃刀法違反容疑で小泉容疑者を東京地検に送検した。

　◆自宅近く・一戸建て、狙いやすい２人から◆

　　襲撃事件の対象になった吉原健二さん（１９９０年６月に厚生事務次官を退官）以降、現在の江利川毅・厚労次官まで旧厚生省と厚生労働省を合わせて１４人が次官を経験している。なぜ、この中から吉原さんと６代後の次官だった山口剛彦さんが狙われたのか。警察当局は２人の自宅がいずれも、さいたま市内の小泉毅容疑者の自宅から車で２０～３０分で、閑静な住宅地の一戸建てという点に着目。２人の元次官が狙いやすかったとみて調べている。

　襲撃事件後、警察当局は、山口さんと吉原さんの経歴から、年金不祥事や次官経験者の高額な退職金への反感が犯行につながった可能性もあるとみて捜査していた。しかし、同容疑者が語った動機は「犬に代わって敵を討った」などと不可解な内容で、２人の過去の仕事との接点も今のところ判明していない。

　２人の自宅住所はＮＴＴの番号案内には登録されていないが、１９９６年ごろまで「厚生省便覧」（同省監修）に２人も含め旧厚生省の幹部職員の住所や顔写真が載っていたほか、２０００年ごろまで数種類の住所入りの職員録が民間の出版社から販売されていた。小泉容疑者の自宅周辺にある少なくとも２か所の図書館でも、中央省庁の職員録が閲覧でき、２人の住所も掲載されている。

　２人の自宅は歴代の次官経験者の中で小泉容疑者の自宅から近く、山口さん宅は車で国道１７号を南下すれば約２０分、吉原さん宅も新大宮バイパスや外環自動車道を使えば、３０分ほどで行ける一軒家だった。首都圏のマンションに住む次官経験者の一人は「私の家はオートロックで襲うのは難しかったのでは」と話した。

　捜査幹部によると、同容疑者は今回の事件以前にもレンタカーを借りたことが確認されており、警視庁は、何人かの元次官宅を下見した後、２人を狙った可能性もあるとみている。  
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　読売新聞抜粋